로그인後部座席から、とてつもないオーラを身にまとい颯爽と一人の男性が姿を現す。「え……一弥さん!?」それは間違いなく一弥さんだった。え? 一弥さんがなんで!?結婚してたとき、うちに執事さんがいたから、それなりのお金持ちなんだとは思ってたけど。それでも、こんな運転手さん付きの、すごい車に乗ってるところなんて一度も見たことなんてなかった。「杏華。待たせた」キリッとした表情で車から降り立った瞬間、あまりのそのオーラとカッコよさに息を呑んだ。彼は車から降りると、そんな周りに一切目もくれず、私を見つけると優しい眼差しで見つめながら、そばまでやってきた。私はその光景に唖然とし、固まったまま、同じようにそんな一弥さんを見つめる。「撮影疲れただろ。ここから家まで結構時間がかかる。着くまでゆっくり車で休め」そう言いながら、スッと私の背中を優しく手で支え後部座席へと促す。「あり……がとう……」私はドラマのような光景が自分に起こっているのが信じられなくて、ただ呆然としながらそれ以上言葉も出ずに、そのまま彼に優しく促され、その座席へと座る。私が座ったのを確認すると、彼も反対側のドアに回り、隣の座席に座る。ふかふかのソファーに広すぎるその空間。乗ったこともないこの豪華な車に、私は少し緊張してしまう。だけど、その空間以上に、この密室で運転をしていない彼がこんな近い距離ですぐそばにいるということに、私は少し体が固まってしまい今まで感じたことない緊張感を覚える。私は無意識に自分の両腕をギュッと抱え、縮こまってしまう。「杏華」声をした方向を見ると、すぐ隣で私をじっと見つめている一弥さんに気づく。えっ──!?一弥さんが少しこちらに身体を乗りだし、更に私の方へと近づいて顔を覗く。何、何!? なんでこんな近いの!?なんでこの人こんな近くで私をじっと見つめているの!?私は更に身体をすくめ、ほんの少しのけ反る。「寒いのか──?」「えっ!?」あっ、私がこんな仕草をしているから、彼は心配したってこと──?「あっ、えっと」私は一弥さんを意識しまくっている自分を悟られたくなくて、ごもってしまう。すると彼が運転手さんの後ろのパーテーションを少し開け──。「崎山。後ろの温度を少し上げてくれ。杏華が寒がっている」「承知いたしました」運転手さんに彼は温度を上げ
「杏華。着替え終わって帰る準備が出来たら連絡してくれ。表に車を回しておく」「うん。わかった」撮影が終わったあとスタッフさんたちに挨拶をし、一弥さんに言われたとおりスタジオを出て正面入口まで夏希と向かう。「夏希。今日も素敵なメイクありがとう」「どういたしまして」「夏希がいつも一緒だなんてホント嬉しいな。夏希がいると、安心も出来るし何よりホント自信持てるんだよね」「それは、すっごい嬉しいんだけどさ。そういう素直な気持ち、他にもちゃんと伝えたい人がいるんじゃない?」そう言いながら、夏希は意味ありげな言葉と共に微笑む。「え!? な、なんのこと!?」「やだな~わかってるくせに~。ホント二人とも素直じゃないんだから~」「え……? 二人ともって……?」「あぁ~誰かさんがさ、全然素直じゃないな~って話。まぁ、杏華はとりあえず桐生さんに今日嬉しかったこと、ちゃんと伝えるんだよ?」「え──? あっ、うん。わかってる──」もちろん今日のこの気持ちは、一弥さんにちゃんと伝えたいとは思ってる。けど……。うまく話切り出せるかな。お礼伝えただけで話終わっちゃわないかな。今までそんなことをわざわざ改まって、伝えるということを待つというか意気込むというか、そんなことしたことなかったから、ちゃんと伝えられるか少し緊張してしまう。昔は、それこそ胸に秘めていた想いは山ほどあったけど、実際彼に直接伝えられることなんてなかったからな──。「フフッ。なんだかちょっと緊張しちゃう」「もう~杏華はホント可愛いな~! 今の杏華そのままで桐生さんに伝えたら絶対大丈夫!」「ちゃんと話聞いてくれたらいいな」「──大丈夫! 絶対今の桐生さんなら聞いてくれるから! 私が保障する!」夏希が自信満々にそんな言葉を伝えてくれる。夏希は一弥さんのこと全然知らないはずなのに、どうしてだか夏希の、このはっきり宣言する感じが、私よりも彼のことを知ってるような、そんな雰囲気に感じてしまう。だけどそれがなんだか心強くて。そして今の彼ならホントに、ちゃんと聞いてくれるような、そんな淡い期待を実際私も感じてしまっているから──。「ありがとう夏希。頑張ってみるね」別にそれは、たいしたことない話で、ただお礼を伝えるだけなのに。私にとっては、そんなことを伝えるだけでも一大事みたいなもの
【一弥side】「一弥さん! 来てくれたのね!」撮影が終わると、杏華は真っ先に俺の元へと駆け寄ってきた。「あぁ。仕事が思ったより早く終わってな」正直この撮影に間に合わせるために、かなり無理をした。徹夜で終わらせた影響で、寝る時間もなかったが、プライベートジェットの時間、唯一仮眠程度に少し寝れただけだった。夏希さんには本当のことを伝えたが、なぜか杏華にはそういうことを素直には言えなかった。すると、杏華と逆に立っていた夏希さんが隣から小声で強めに俺に話しかける。「(どうして隠すんですか! 素直に杏華のために無理して帰って来たって言えばいいじゃないですか!)」「えっ? どうしたの夏希?」俺が答える前に杏華が気づき夏希さんに声をかける。「あっ、なんかー。桐生社長。ホントは、すっごい無理してこの現場に韓国から駆けつけたみたいだよ~」すると、わざとらしく夏希さんがそんな言葉を杏華に伝えた。「え!? 今日の出張って韓国だったの!? 無理して駆けつけたって!?」杏華は案の定その言葉に驚いている。「徹夜して杏華の撮影間に合わせてくれたんだって。プライベートジェットで飛んできてくれたらしいよ~?」「(ちょっと夏希さん──!)」全部話してしまう夏希さんに、俺は小声で思わず声をかける。「徹夜……? プライベートジェット……?」杏華は、目を丸くして静かに呟く。それもそのはず。俺はそこまでのことを杏華に一切話していない。俺がどんな仕事をして、どこまでの家柄なのか、結婚していたときは、俺の面倒な家の事情に巻き込みたくないのと特に話す必要もなかったから、適当にそれなりの金持ちくらいに思わせていた。──本気で愛し合っていなかったからこそ、俺は杏華を危険な目に遭わないように避けていた。だが、この業界に杏華が飛び込んできたということは、いつか杏華にも話さなきゃいけなくなるだろう。いや、逆に自分の今の気持ちに気づいた以上、これから杏華を本来の自分の力で守ってやるべきなのかもしれないと、そう思い始める。「──どうしてもお前の今日の単独の仕事を見届けたくて、俺が勝手に無理、したというか……まぁ、調整しただけの話だ。気にするな」これで杏華が負担に思ってなければいいが……。そう思っていると──。「嬉しい──。ありがとう」杏華が、嬉しそう
【夏希side】「どうか杏華のすべてを受け止めてもらえませんでしょうか」いきなりそんなことを言い出した意味がわからず、私は聞き返した。「それはどういう意味でしょうか」「彼女は、ある理由があって、今まで一人でいくつもの苦労をして心が傷つく想いをしてきました──。もし彼女がその理由を自分から話すときがあれば、どうかあなたが友人として、その心を支えてやってほしいんです」「え……。杏華にそんな辛いことがあったってことですか……?」「理由は……、俺の口からは言えません。ですが、きっと彼女はあなたに頼るはずです。そのときは、俺が彼女と話せないようなことを、あなたは聞いてやってほしい」桐生さんの表情は、少し悲しそうで苦しそうな表情だった。何かの理由があると思いながらも、私は何も尋ねなかった。「──わかりました。何があったかわかりませんが、彼女がもし私を頼ってくれたとき、必ずすべてを受け止め私が支えます」「ありがとうございます」桐生さんは私に頭を下げる。そのときは、ただのビジネスパートナーだったから、そこまでするのかと思っていた。だけど、実際杏華から話を聞いたら、まさかの元夫婦で、結婚していたときは、今と想像出来ないほどの冷酷だったことを知った。そんな人が、あのとき何のためらいもなく、私にそんなお願いをするために、頭を下げていた。私は桐生さんと出会ったときから、杏華に嫉妬し、気にかけ、ただ不器用ながら杏華に想いを向けている人という印象だった。だからどうしても私は、今の桐生さんは私にはそんな人にしか見えないのだ。「ですが──。契約金は、いらないです」「え?」私はそのとき掲示された契約金の話を断った。「約束の金額をいただけるだけで十分です。私は、杏華がもし何かを打ち明けて来たときは、友人として、ただ支える。それだけです」桐生さんは私のその言葉が意外だったのかハッとした表情になる。
【夏希side】杏華の撮影が始まるナイスタイミングで、桐生さんがスタジオに到着した。二人の様子を見てたら、お互い目を合わせ、小さくはにかんでいる二人が初々しくて仕方ない。ホントにこの二人は離婚したのか?しかもこの桐生さんが杏華にまったく興味がなく冷酷な男?いやいや、どう見ても感情ダダ洩れで、甘々なんですけど?確かに言葉的にはそんなふうには感じないしクールに見えるけど、あれはただ本人が自覚なくて表現の仕方を知らないだけなんだよな。私にも『全力で杏華を守れ』って普通の条件じゃないんだよね。でも杏華は確かにこの人に傷つけられて自信なくしてるし、元々そういう要素は持ってるんだろうけど。でもなんか放っておけないんだよな。この二人。よし。ちょっと探ってみるか。「桐生社長。お疲れ様です」私はスタジオの後ろで立っている桐生さんの横にスッと並び声をかける。「あぁ。お疲れ様」私に言葉だけ返し、視線は杏華をずっと見つめ続けている。その視線は、完全に社長というより、愛しい恋人を見つめる視線なんだよな~。「あの。フルーツどうもありがとうございました!」「あぁ。無事届きましたか」「はい! 杏華もすごく喜んでました!」「そうですか。──よかった」そう私が伝えると、一瞬嬉しそうに安心したように小さく微笑む。「今日の杏華。どうですか。杏華が本来持っている優しいイメージを際立たせるように、柔らかくて透明感ある仕上がりにしました」「──あぁ。彼女が持ち備えてる優しい部分が、あなたの腕を加えてもらえたおかげで、より魅力的に出てると思います。さすがですね」「ありがとうございます」ちゃんとそういうふうに思ってるんだ。杏華にそういう言葉ちゃんと伝えてないのかな、この人。「なんとか撮影に間に合ってよかったです」「あっ、そういえば今日来られる予定じゃなかったんですよね?」「はい。元々の予定では昨日から韓国に出張に行ってたので、今日の夜に帰ってくる予定でした」「え? そうなんですか? お仕事急遽なくなったとかですか?」「──いえ。仕事のスケジュールは変わりなかったのですが、杏華の今日の撮影はどうしても自分が見たくて、徹夜で仕事を早めて、なんとか間に合わせました」「え!? 徹夜ですか!? てか今、午前11時ですよ?」夜までの予定だった仕事を徹夜し
この日の撮影は、綾乃も他のモデルも誰もいない一人だけの撮影。別現場で私の撮影を見ていた関係者さんが、私が雑誌のイメージにピッタリだと言ってくれて声をかけてもらったお仕事だ。「杏華さん。今日はよろしくお願いします!」「こちらこそよろしくお願いします」スタジオに行くと、早速関係者さんが挨拶に来てくれる。「まだこんな新しく創刊されて人気も出ていない雑誌ですが、仕事引き受けてくださってありがとうございます」「いえ! とんでもないです! 私もまだ新人みたいなものですし、ここからいろんなお仕事していきたいんです」「うちの雑誌は『優しさと笑顔を届けたい』というコンセプトなんです。以前杏華さんが女の子と花畑で撮影していた雑誌の写真を拝見して、あの透明感や優しい雰囲気が、うちの求めてるイメージにピッタリだなと思って、ぜひ杏華さんにお願いしたかったんです」「嬉しいです。私もあの写真大好きで、通常では機会がなかったお仕事なので、あの撮影が出来て私もとてもいい経験になりました」たまたま撮影現場でスタッフさんから他のモデルさんの代わりに撮影に行ったお仕事。小さな子供との撮影だったから、他のモデルさんは誰も率先して手を挙げなかった。だけど、私はあの撮影を経験出来たおかげで、母親になるこれからの期待や楽しさを味わわせてもらえて、とても実りある撮影だった。それがまたこうして別のお仕事に繋がっているなんて、すごく嬉しい。頑張ったことや、自分が信じた道は、こうしてどこかに誰かに届いているんだと思うと、また胸がいっぱいになる。そしてそれからスタッフさんと打合せをしていると、スタジオに入ってきた人物に気づき、私は視線を移す。──あっ、一弥さんだ!キリッと引き締まった表情と出で立ちの一弥さんに、スタジオがざわめき一斉に視線が彼に集まる。入ってきた瞬間、彼から醸し出す圧倒的なオーラある存在感に、スタジオの空気が一瞬で引き締まったのがわかった。彼が颯爽とスタジオに入ってくる姿に、小さく胸が跳ねる。こんなふうに、彼の姿を見つけ、胸をときめかせることは、初恋だったあの頃以来かもしれない。結婚が決まってからは嬉しい気持ちはすぐに消え、不服そうな彼との時間を重ねていくことは、私にとって幸せより彼を苦しめている悲しみに変わっていった。けれど、初恋だったあの頃は、いつも人気でた
「……?」 目の前に差し出された離婚届を見つめ、喉が張り付いたような声で問い返した。 「あなた……どういう意味なの?」 「綾乃から、全部聞いた」 彼の顔には、余計な表情は一切なかった。 あるのは、骨の髄まで染み込んだ冷酷さだけ。 「三年前、うちとお前の家に政略結婚の話があると知っていただろ。 お前は俺と結婚したかったから、彼女を追い出した。別れを強要し、海外へ行かせたんだ」 ――ドン、と。 頭の中が、真っ白になった。 「違う……」 声が震えながらも、私は必死に最後の光にすがる。 「一弥さん、信じて……! あの時は、彼女が自分で行きたいと言って……私は……」 「もういい
「わあ、すごく綺麗なお花!」 綾乃は、私の腕の中に抱えられた花束を、目を輝かせて見つめた。 私は反射的に花束を抱き寄せる。 「この花は……」 言い終える前に、すらりとした長い手が、私の腕の中から花束を奪い取った。 呆然と顔を上げると、そこには桐生一弥の、感情の揺らぎひとつない瞳があった。 彼は、私が心を込めて選んだ――純潔な愛を象徴する白いバラの花束を手にすると、そのまま自然な動作で振り返り、綾乃の前に差し出した。 「誕生日おめでとう、綾乃」 低い声だったが、突然静まり返った個室の中には、はっきりと響き渡った。 綾乃は驚きと喜びの入り混じった表情で花束を受け取り、顔を花びらに
【プロローグ】 初恋は実らないものだ、と人はよく口にする。 私はそれを信じず、初恋の人と結婚した。 結婚三周年記念日。 私は妊娠をした身で、ミシュランに引けを取らないほどのご馳走を並べ、彼の帰りを待っていた。 すると彼から一本のメッセージが届き、ある高級レストランの住所だけが記されていた。貸し切りだと。 ついに彼も気が回るようになったか、サプライズを用意してくれたのかと思った。 ドアを開けた先にあったのは、私の妹・綾乃の誕生日会だった。 その瞬間、私はすべてを悟った。 自分だけが幸せだと思い込んでいたこの結婚は、最初から最後まで私ひとりだけの独り舞台だった。 私はあの子の影
目を覚ました瞬間、強い戸惑いに包まれ、次いで記憶が断片的に一気に押し寄せてくる。 気付けば無意識のうちに私は下腹部をかばっており、鈍い痛みが走った。 そのとき、そばにいた一弥さんの姉の真琴さんが私が目を覚ましたことに気付き、慌てて駆け寄る。 真琴さんは私の手をぎゅっと握り締め、声を震わせながら言った。 「よかった……やっと目を覚ましたのね。お医者さんが言ってたの。急激な精神的ショックと、長期間の心身の抑圧が原因で、切迫流産の状態だって。今は安静が必要よ。……ねぇ、どうして妊娠していること私に言ってくれなかったの?」 「どうして、私は病院にいるの? どうして真琴さんがここにいるの?」